今回は広島文教大学で准教授を務める小原寿美先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。キャリア形成、インターンシップ、日本語教育をご専門とされている小原先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いします。
研究背景・専門領域に関する質問
担当している授業は、キャリア形成科目、インターンシップ、日本語教育科目を中心に構成されています。授業では、学生が主体的に学び、実社会で必要となる力を身につけられるよう、ペアワークやグループワークを積極的に取り入れた実践的な学びを重視しています。特にキャリア教育関連科目では、自己理解を深め、キャリアレジリエンス(環境の変化や困難に直面しても、自分のキャリアを立て直し、適応し続ける力)を育て、将来の進路選択に向けた意思決定力強化を目的に、「学生が自身の経験を振り返ることで成長につなげるプロセス」を重視しています。
また、日本語教育や外国人介護人材支援に関する研究を背景に、グローバル社会で求められる協働力や配慮について学ぶ機会を提供しています。さらに、インターンシップ関連科目では、事前・事後指導を通じて、実習の教育的効果を高める工夫を行っており、学生が実践経験を意味づけ、社会での役割意識を育てることを目指しています。
これらの授業は、学生が自ら考え、他者と協働し、変化の大きい社会で主体的にキャリアを築くための基盤を育む内容となっています。
二つの領域を横断して研究を進めてきた背景には、「キャリア教育」と「外国人支援・若年者支援」という共通する課題意識があります。大学生や、日本語教育を通じて関わりを持った外国人材が、新しい環境に適応し、学びやキャリアを形成していくプロセスや、そのための支援に関心を持っています。
日本語教育の分野では、EPAで来日した看護師候補者への日本語支援や、外国人介護人材の組織適応に関する研究を行い、言語面・文化面での支援の必要性を明らかにしてきました。一方、経営学・キャリア教育の領域では、大学生のキャリアレジリエンス獲得プロセスやインターンシップの教育効果を分析し、個人が職業的成長を遂げるための環境づくりに取り組んでいます。
これらの研究は、異文化背景をもつ学習者や若者が組織や社会に円滑に参画するためには、言語教育とキャリア支援は切り離すことができないという問題意識に基づいています。日本語教育で培った「伝える・理解する」プロセスへの洞察と、経営学的視点からの「組織・キャリア形成」への理解を統合することで、より実践的で包括的な支援モデルを構築しようとする思いが、研究の根底にあります。
キャリアの意思決定のプロセス

キャリアレジリエンスの形成プロセスは、個人の経験の積み重ねと、環境との相互作用によって段階的に育まれるものとして捉えられています。大学生を対象とした研究では、学生が直面する不安や葛藤を、内省と試行錯誤を通して意味づける過程が重要であることが示されています。
特にインターンシップなどの実践的学習は、未知の状況に身を置き、課題に向き合う機会を提供することで、自己理解の深化や役割意識の形成を促します。こうした経験は、単なる成功体験だけでなく、失敗や戸惑いを含む「揺らぎ」「苦痛」を伴いますが、それを振り返り、他者からの支援やフィードバックを受けて再解釈することで、困難に対処するための認知的・情動的な資源が蓄積されていきます。
また、外国人介護人材や看護系学生の研究では、異文化適応の過程で生じる困難に対し、言語的支援や組織的サポートがレジリエンス形成を後押しすることが明らかにされています。つまり、困難を乗り越える力は、個人の主体的な内省と挑戦、そして周囲からの支援が相互に作用することで育まれ、経験を意味づけるプロセスそのものが成長の核となるといえます。
「意思決定を前向きな成長につなげる思考プロセス」は、経験を意味づけることと内省を中心に据えた段階的なプロセスであると考えます。
まず、学生たちが直面する課題や不確実性を、単なる困難としてではなく「学習の契機」として捉え直す視点が重要だと思います。インターンシップ研究では、未知の状況での判断や行動が、自己理解を深め、価値観やキャリア観を再構築するきっかけとなることが示されています。意思決定の過程で生じる迷いや葛藤は、内省を通じて自分の強み・弱み、興味、役割意識を再確認する材料となります。
また、外国人介護人材の適応研究では、言語的・文化的な壁に直面した際、周囲の支援やフィードバックを受けながら選択を重ねることで、自己効力感が高まり、前向きな成長につながることが明らかにされています。
つまり、意思決定を成長につなげる鍵は、1.経験を振り返り意味づける内省、2.他者との対話や支援を通じた視点の拡張、3.試行錯誤を許容する環境の存在だと思われます。これらが相互に作用することで、個人は自らの選択を肯定的に捉え、次の挑戦へとつながるレジリエンスを育んでいきます。そして、この連鎖が自身の意思決定を前向きな成長につなげる思考プロセスそのものだと思います。
職業選択・企業選びに関する質問
「環境」と「自分の専門性」のどちらか一方を優先するのではなく、両者を往還させながら発展させていく姿勢が重要であると思われます。
私自身も、日本語教育と経営学という異なる領域を横断し、「インターンシップ教育」「キャリアレジリエンス」「外国人介護人材の適応支援」など、多様なテーマに取り組んできました。社会の変化や現場の課題に応じて研究テーマを柔軟に広げ、環境が求めるニーズに応答しながら自身の専門性を深化させてきた自負があります。
たとえば、外国人介護人材の組織適応や日本語支援に関する研究は、社会的要請の高まりを受けて展開されたものであり、環境の変化が研究の方向性を形づくっています。一方で、大学生のキャリアレジリエンス獲得プロセスの研究では、個人の成長や内省に焦点を当て、専門性としてのキャリア教育の視点を強化しています。環境に合わせて専門性を変えるのではなく、環境から得た課題を自らの専門領域に落とし込み、独自の視点で再構築することで専門性を発展させてきました。
以上から、専門分野の形成は、外部環境と自己の専門性を相互に作用させながら進む動的プロセスだと考えています。独自の研究軸はその過程で磨かれていくものです。
AIやテクノロジーが急速に発達する時代において、学生が身につけるべきスキルは、単なる技術習得にとどまらず「変化に適応し、自ら学び続ける力」であると考えます。
キャリアレジリエンス研究では、困難や不確実性に直面した際、それを成長の契機として意味づける内省力や、試行錯誤を通じて自分の役割や強みを再構築する力が重視されています。AI時代は、正解が固定されない状況が常態化するため、こうした「揺らぎを受け止める力」が不可欠となります。
また、インターンシップ教育の研究では、実社会での経験を通じて他者と協働し、課題を発見し、解決策を模索するプロセスが、学生の主体性や判断力を育むことが示されています。さらに、外国人材の適応支援研究からは、多様な背景をもつ人々と協働するためのコミュニケーション力や文化理解が、これからの社会でますます重要になることが読み取れます。
つまり、AI時代に求められるのは、1.自ら学び続ける姿勢、2.内省と意味づけによるレジリエンス、3.多様性を前提とした協働力、4.未知の課題に向き合う探究心です。これらの力が、テクノロジーと共存しながら主体的にキャリアを築く基盤となるのだと思われます。
先生の専門的視点からのアドバイス
変化を恐れず、自分の経験に意味を与えながら歩み続けてほしいと思います。キャリア研究では、困難や迷いは避けるべきものではなく、むしろ成長の契機になり得ることが示されています。
不確実性の高い現代では、キャリアは計画通りに進むものではありません。予期せぬ出来事や環境の変化をどう受け止め、どう意味づけるかによって、動的に形づくられていきます。だからこそ、正解を求めすぎず、経験を通じて自分の軸を育ててほしいと思います。
他者との対話を大切にし、学び続ける姿勢を持つことで、環境と自分自身の間を行き来しながら未来を切り開いていけるはずです。そしてできることなら、パラレルキャリアのように、人生の幅を広げるもう一つのキャリアの可能性も心に留めておいてください。
人生100年時代、複数の視点でキャリアを築くことは、あなたの世界を豊かにしてくれます。キャリアとは、生涯を通して少しずつ輪郭を描いていく長い長い旅路なのですから。
広島文教大学の基本情報
今回インタビューにご協力いただいた先生は、広島文教大学で准教授を務められている小原寿美先生です。
| 名称 | 広島文教大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒731-0295 広島市安佐北区可部東一丁目2番1号 |
| 大学HP | https://www.h-bunkyo.ac.jp/university/ |