今回は亜細亜大学で准教授を務める髙見啓一先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。アントレプレナーシップ教育、ベンチャービジネス論をご専門にされている髙見先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いします。
研究背景・専門領域について
アントレプレナーシップは「企業家精神(起業家精神)」と訳されますが、私が研究しているアントレプレナーシップ教育(以下、「アントレ教育」)は、起業するための教育に留まらない「広義のアントレ教育」です。アントレプレナーシップを、「自身で課題を設定し、その解決のために他者の協力も得ながら、価値を生み出していくスキル」と捉え、アントレ教育ではこれを高めることを目的とします。
このようなスキルは、自身の枠組みを超えた新たな発想や、異質な他者との関わりによって育まれます。そのため、担当講義「ベンチャービジネス論」では、起業のHow Toを教えるのではなく、学生自身に自らの課題を設定させ、ベンチャー企業家の発想法を参考にしながら課題を進めるようなタスクを毎週課しています。
課題は学生に自由に決めさせており、「内定の獲得」「資格の取得」「趣味の実現」など様々です。学生同士が互いに刺激を与え合えるような仕掛けもしています。
具体的には、学生各自のタスクをGoogleのスプレッドシートに記入させ、学生間で閲覧可能にするほか、講義内でもディスカッションや報告会を行っています。
この授業がきっかけで「初めて企業説明会に申し込んだ」「キャリアセンターに通うようになった」「他の学生の頑張りを見て自分も頑張ろうと思えた」といった声もよく聞きます。
私はこれまで、高校におけるアントレ教育を中心に研究してきましたが、生徒の「自発性」や「関心」が、アントレプレナーシップ育成のキーファクターとなっていました。つまり、自身が関心のあることをテーマに取り組むことで、アントレ教育への参加度合いが高まり、枠組みを超えた出会いや学びを得ることができ、アントレプレナーシップが高まるというメカニズムです(詳しくは拙著(髙見・横山・宮崎, 2024)参照)。
ですので、学生たちには授業や仕事に限らず、自身の興味のあること(趣味でもなんでもOK!)に挑戦してみてほしいのです。そのときに、大切にしてほしいのが「遊び心」や「居場所感」です。
上記のアントレ教育メカニズムでは、「非公式性」や「サードプレイス特性(居心地と多様性が同時に成立する場)」もキーファクターとなっていました。イメージとしては、カッチリしすぎずに楽しく挑戦すること、内輪で固まらずに新しい人や考えと出会うこと、が重要となります。
そのため、ゼミナールでは「遊び」もあえて取り入れるようにしています。スポーツ、BBQ、ゲームなど、学生自身でやりたいことを企画させます。遊びの企画を通じて、他者とともに主体的に行動することを体感させているのです。
キャリアの意思決定・自分自身との向き合い方
大学時代は教職に興味があったのですが、当時の就職氷河期で教員採用倍率は数百倍と狭き門だったのと、地方自治にも教育学の知見を活かせると考え、公務員になりました(当時採用された自治体も倍率200倍くらいでしたが・・・)。様々な別れ&出会いの転機があり、その後、起業や経営コンサルタント、士業など、いろいろな仕事をしてきましたが、最終的に自分が「研究者」になるとは思っていませんでした。
研究者となったきっかけは、士業をしていた頃、短期的・反復的なビジネスだけでは面白くないと感じ始め、自分を高めるために大学院に行き始めたことです。その時に出会った現在の師匠の先生が本当に楽しそうに教育&研究をされていて、その方に「(髙見は)大学教員に向いてるよ!」と言っていただいたことで、研究者の道に進むことになりました。
いま思い返すと、公務員時代にも社会人大学院に通ったり、起業してからも資格を取ったり、士業として食べていけるようになってからも学位をとりに行ったりと、「自分を高めるための時間」を常に確保していたなあと思います。いわば「ワーク&ラーニングバランス」です。
「自身を貫こうとすると生きづらいよね。でも、そのままの自分でいていいんだよ!」と伝えますね。私自身、仕事は変わっても常に「自分がしたいこと」を貫き続けてきました。
その分、浮いてしまうことも多かった人生だからです(今もかな・・・?)。大学教員は自分の知的好奇心を持ち続け、同調圧力に負けずに新規性のある研究をしなければならない仕事なので、この特性は合っているのかもしれません。
そのせいか、私のもとに集う学生も、自身のやりたいことを主張して行動できる子が多い半面、周囲との違いで悩む子が多いです。そんな学生にいつも伝えているのが、上記のアドバイスです。ここに、「あなたが自分を貫ける社会をつくるのは、私自身のためだから!」と付け加えています。
職業選択・キャリア形成について
これは、ベンチャーやアントレ教育と同じように、正解がない、または正解が多数存在する問いだと思います。そのときの景気や職種などは自分だけで決められるものではありませんし、そのときに正解とされていたものが将来も正解とは限りません。
たとえば、近年はAIの発展で就労構造が変わっていくと言われています。私の時代でいえば、就職氷河期にもっと教員を大量に採用していたら、いまの教員不足問題も緩和されていたでしょうから、これも「当時の正解」→「現在の不正解」の一例です。逆に、私は教員にならなかったことで、いまの仕事に出会えています。
キャリア観と呼ぶほど完成させた考えではないですが、唯一の正解がない以上、その人なりに「そのときのベスト」を自分で決めて、自分から動けるかどうか、ではないでしょうか。まさにアントレプレナーの考え方です。
経営学でもZ世代の研究が出てくるようになりましたし(金沢大学の金間大介教授の著書は面白いので、ぜひ読んでみてほしいです)、私のゼミナールの学生たちも、Z世代の課題をテーマに研究に取り組んでいます。それらの知見や実感から私見を述べます。
今の若者の強みは「周囲に合わせようとするところ」でしょうね。周囲の学生が動けば、本人も不安になって動き始めますから。上手に使えば、キャリアを進める上でのブースターにできると思います(私の授業やゼミはその心理を利用しているとも言えますね)。
一方で、私が気になっている点は「好きなこと・やりたいことが言えない」という点です。若者の間では「推しバレ」「意欲バレ」を避けたい傾向があるそうで、「自身の特性を知られたくない」「周囲から浮いてしまうのを防ぎたい」という心理があるようです。
この背景には、「頑張っても、目立つと叩かれる」という我が国の世情が背景にあるため、このような社会を作ってしまった大人側にも責任があるということを知ってほしいです。
だからこそ、現代の若者には自発性や多様性を尊重するアントレ教育が必要だと実感しています。私のゼミでも「やりたいことを発言する」「やりたいことのために役割を買って出る」「そんな人たちが浮かない場をみんなで作る」といったことを大切にしています。
先生の専門的視点からのメッセージ
みなさんに送りたいメッセージは「自分のための時間を配分できていますか?」です。それは必ずしも「自己啓発をしなさい」等ではなく(したい人はぜひしてください!)ふだんの授業や仕事、自分の趣味についても考えてみてほしいのです。
授業や仕事の時間であれば、「単位のため」「義務だから」と思考を停止させるのではなく、「(全部は無理だと思いますが)どう取り組めば自分にプラスになるか?」と考えてみてほしいのです。
趣味や好きなものも同様です。「人や流行になんとなく合わせていないか?」「本当に自分のためになっているのか」を、問い直してほしいです。自分が本当にしたいことは、自分自身しか強制できないのですから。
亜細亜大学の基本情報
今回インタビューにご協力いただいた先生は、亜細亜大学で准教授を務められている髙見啓一先生です。
| 名称 | 亜細亜大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒180-8629 東京都武蔵野市境5-8 |
| 大学ホームページ | https://www.asia-u.ac.jp/ |