今回は愛知東邦大学で教授を務める手嶋慎介先生に、「キャリアにおける意思決定と自己理解の重要性」についてインタビューをさせていただきました。経営組織やキャリア教育をご専門とされている手嶋先生に、キャリアの転機における考え方や効果的な意思決定のプロセスについてお伺いします。
研究背景・専門領域に関する質問
人が成長し活躍できる組織づくりをテーマに、経営組織やキャリアに関する研究を行っています。研究キーワードの一つは「連携」です。共に育つ、共に創るという「連携」の精神を核に、持続可能性の高いキャリア教育プログラムづくりに取り組んでいます。
最近は、共同研究の成果として「大学キャリア支援の実践と可能性」を編集・出版しました。この本の中では、「インターンシップ」や「資格取得」などを多面的に考察しました。ここ数年間にわたって行った研究会の内容も収録しましたが、ベンチャー企業経営者や卒業生も講師として呼ぶなど、大学生も参加できるような工夫をしています。
これからのキャリア支援で最も課題を感じているのは、キャリア支援が「就職活動の準備」に矮小化されてしまっているのではないか?という点です。面接対策やES添削はもちろん必要ですが、それ以前に「自分はどう生きたいか」という根本的な問いと向き合う機会が不足しているように思います。
さらには、支援の多くが一方向的な情報提供にとどまりがちです。既存のスタッフだけで取り組もうとするのではなく、「連携」という考え方を軸につながりとひろがりを意識して、産官学のリソースを活用しながら、学生に多様な出会いと気づきの機会を届けることで、キャリア支援の課題に向き合っています。
キャリアの意思決定のプロセス(研究・実務)

大学院生から専任教員になるまでの間、非常勤講師をしながら、企業での人材育成支援に携わっていました。その頃に感じたのは、大学段階での学びと社会で求められる力の間に大きなギャップがあるということでした。
そこで、大学教育の中に「実社会とつながる学び」を組み込み、学生が自分の可能性を実感しながら成長できる仕組みを作りたいと考えるようになりました。専任教員になった後、ちょうど10年ほど前に、愛知東邦大学の「中小企業のための若手社員活性化プログラム」が文部科学省の「職業実践力育成プログラム」に認定され、その講師を務めることになりました。
中小企業経営者の方々との対話や若手社員の声を聞く中で、学生と若手社員が共に学ぶワークショップを企画するなど、現在の研究につながる実践を積み重ねていきました。
若手社員との対話の中でわかったことは、若手社員も就職活動を間近にした在学生も、キャリアの分岐点に立つ者として、さまざまな問いを抱えているということでした。私がとくに大切にしているのは、「自分らしさ(オンリーワン)を活かせるか」と「ピンチをチャンスに変えられるか」という二つの問いです。特に後者は、私自身のCredoそのものでもあります。答えが出なくても、行動しながら考え続ける姿勢が重要です。
産学連携プロジェクトでは、学生チームが企業課題に取り組んだ結果、厚生労働省による「ユースエール認定企業」として認定されるなどの成果も生まれました。「ピンチをチャンスに」という問いかけは、そうした実践の中でこそ、自分の言葉として根付いていくものだと感じています。
職業選択・企業選びに関する質問

産学連携PBLで見えてきたのは、体験だけでは力はつかないということです。重要なのは「経験の言語化」と「内省の習慣」です。何かを体験したとき、「自分はどう感じたか」「なぜそうなったか」「次にどうするか」を言葉にする訓練が、体験をスキルへと昇華させます。
また、PBLでは他者とのフィードバックを通じて自分の思考の癖に気づく機会が生まれます。体験を「エピソード」で終わらせず、「学習」として構造化できる人が、実務でも成長し続けられます。日記でも振り返りシートでも、自分なりの内省ツールを持つことを勧めています。大学生は各大学で用意されている学生ポートフォリオ(愛知東邦大学の場合、「TOHO Compass」)の活用が有効です。
AIやデジタルツールが急速に普及する中で、私が特に重要だと考えるのは「問いを立てる力」と「関係構築力」の二つです。ネット検索が普及した頃から、情報をうまく集められない学生の存在が気になっていましたが、AI時代にはその差がさらに広がると感じています。
AIは与えられた問いには答えられますが、そもそも何を問うべきかを判断するのは人間です。また、「連携」を研究キーワードとしてきた立場から言えば、関係性を築いていく力が不足していては、どんな連携もうまくいきません。愛知東邦大学の建学の精神は「真に信頼して事を任せうる人格の育成」ですが、AIではなく「あなたに任せたい」と言われる人間であり続けることが、長期的なキャリアの根幹になると、あらためて考えています。
先生の専門的視点からのアドバイス
大学や社会は「体験の場」です。講義で学んだことをそのままにせず、積極的にプロジェクトやインターンに飛び込み、「行動→振り返り→言語化」を繰り返してください。多様な人と混ざり、異なる視点を取り入れる「越境」によって、自分だけのオンリーワンが磨かれます。
失敗を恐れず挑戦を。自分自身をまず「経営」できる人に、つまり、自分の強みと弱みを把握し、主体的に行動を選べる人になれば、どんな企業でも輝けます。
AI時代こそ、人間らしい共感と創造力が武器です。地域や企業とつながりながら、主体的にキャリアを築いてください。今回、インタビューの機会を得て、私自身も多くのことを言語化できました。いろいろなピンチがありましたが、継続することで今の自分がいます。もう一度、Credoを作り直したい気持ちになりました。皆さんも、ぜひ自分自身のCredoを作ってみてはどうでしょうか。
愛知東邦大学の基本情報
今回インタビューにご協力いただいた先生は、愛知東邦大学で教授を務められている手嶋慎介先生です。
愛知東邦大学地域創造研究所の共同研究にて、書籍『大学キャリア支援の実践と可能性』
(地域創造研究所叢書No.39 唯学書房より)2026年3月31日発刊予定。
| 名称 | 愛知東邦大学 |
|---|---|
| 所在地 | 〒465-0097 愛知県名古屋市名東区平和が丘3丁目11番地 |
| 大学HP | https://www.aichi-toho.ac.jp/ |